2008/5/15

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art drops インタビュー 2008 vol.2  テーマ:「現実と虚構の狭間」 ドイケイコ

松江哲明さん/ドキュメンタリー監督 ―後編―

■ 映画監督として確立

日本映画学校を卒業後、『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズ(2001〜2002 年)の演出・構成や、アダルトビデオ(AV)の監督を行う。

AVの現場で出逢ったカンパニー松尾さん、バクシーシ山下さん、平野勝之さんからは、特に大きな影響を受けた。彼らはつくり話だけでなく、ハメ撮りから社会問題、私生活まで現実を取り込んだ作品をたくさんつくっている映画監督。

「多くのことを学びました。中でも、松尾さんの影響は大きいですね」。

カンパニー松尾さんはAV界にハメ撮りというジャンルを定着させた人物でもある。またAVにポップな映像処理や音楽を取り入れるなど、映像的な面からAV界に与えた影響は大きく、幅広いファンから支持されている。

映画『セキ☆ララ』(2006年)は、そういった影響を受けた松江さんの初期の代表作とも言えるだろう。

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『セキ☆ララ』 監督:松江哲明、撮影:村上賢司

二部構成になっていて、第一部は 在日三世のAV女優・相川ひろみが生まれ故郷である尾道を訪れ、第二部は、マイケル・ジャクソンに憧れる在日二世のAV男優・花岡じったと、中国人留学生にしてAV女優・杏奈の横浜中華街デートするというもの。異なる民族・国籍の男女が、カメラの前で性行為を行い、アイデンティティーを赤裸裸に語る。
2005年度の山形国際ドキュメンタリー映画祭に正式招待された作品。

 

そして、2007年にドキュメンタリー映画『童貞。をプロデュース』を公開。この作品はヒットとなり、全国各地で上映される。映画は二部構成で、それぞれニートとオタクの青年が主人公。内容はタイトルと裏腹に実に爽快な青春もので、ドキュメンタリー映画の新しい可能性をみせた。

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『童貞。をプロデュース』 監督・構成・編集・プロデュース:松江哲明、製作:チップトップ


『俺は、君のためにこそ死にに行く』と『ビューティフル・ドリーマー』の二部構成。『俺は〜』は、半引きこもり状態の加賀賢三(23歳)が片思いの女性に告白するまでのドキュメント。へりくつをこねながらも松江さんに鍛えられ成長していく。
『ビューティフル〜』は、田舎で家族と暮らすサブカルオタクの梅澤嘉朗(24歳)が主人公。かねてより想いを寄せる80年代アイドルの島田奈美に会うため自作自演の映像作品をつくるほどで、松江さんはなんとかして彼の作品を島田さんに見せようと考える。


2008年には第3回ガンダーラ映画祭にてセルフドキュメント映画『セックスと嘘とビデオテープとウソ』を発表。この作品では自身の私生活を赤裸裸に描く。

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『セックスと嘘とビデオテープとウソ』 演出、構成:松江哲明、2008年 製作:チップトップ

女性関係や家族なども交えて作成した、松江さん自身のセルフドキュメンタリー作品。人間の優しさ、弱さ、ずるさなどドロっとした部分がドライな編集によりさらりと表現されている。

 

「この作品は、(自主映画を発表する)ガンダーラ映画祭に出す作品だったから、あそこまで表現できた。そうでなかったら無理」。

作品をつくる際は、常に“最初に発表する場所”を意識する。もちろん、たくさんの人に観てもらいたいという思いや、一端外に出してしまったらどうなるか分からないということは認識している。しかし、それでも考える。

「だって、そうしないと作品が弱くなるから。

万人に観てもらいたいだけなら、今の時代、You Tubeで流せば良いですよ」。

また、個人的に気になる数名のことも考える。その人たちにどう思われるか、どういう感想を持たせることができるか。
「今回は5人にも満たなかったかな。そのうち数名には作品の感想を聞くことができました。結果、つくって良かった、と思うことができました」。
にっこりと微笑んだ。

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■ ドキュメンタリーを撮りつづける理由

松江さんはドキュメンタリー作品をずっと撮りつづけてきたが、その理由は何だろう。

「ドキュメンタリーを撮ることだけが残ったからです」。

今まで、バスケが上手くなりたかったのに運動神経が悪くて挫折、漫画が好きなのに絵心が全くなくて挫折、歌が好きなのにすごく音痴で挫折、劇画をつくった時も才能が無いと気付いて挫折。そして、残ったのがドキュメンタリーだけだったと言う。

では、ドキュメンタリー制作の魅力とは一体何か。

「ドキュメンタリーの結末は毎回自分でも分からないほどで、つまり、それくらい他人と同じものは出来ないんですよ」。

映画監督の中には、あえて海外の有名な監督と同じカットを撮って喜ぶ人もいるらしい。しかし、「人と同じことは絶対したくない」松江さんにとっては、ドキュメンタリーが何よりの魅力となった。

ふと、先ほど松江さんがおっしゃっていたバスケ部時代の“皆で力を合わせて頑張る”とか“皆に揃えて整列”していた苦痛な思い出が蘇り、リンクした。
「昔から、人と同じとか強制されることが大嫌いだったんですね」。

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また、制作において明らかに楽しんでいる部分もうかがえた。

「僕のドキュメンタリー作品は『嘘』だらけ(笑)。作品に携わる人たちの共犯で成り立っている部分もたくさんありますし」。

『嘘』というのは、冒頭に記載したように、1つの(松江さんの)視点でしか状況を伝えられないとういこと、現実を演出して大胆に編集しているということから出た言葉のようだ。

「ただ、作品における自分の気持ちは『本当』です」。

なんだかスッとした。
しかし、今となっては『嘘』であろうとなかろうと、どっちでも良い気もした。

 

■ 今後について

先頃、2008年8月に公開される松山ケンイチ主演の映画『デトロイト・メタル・シティ』のメイキング映像をつくった。その際、ドキュメンタリー制作における新たな楽しみと出会う。

「多くの人に認知のある、いわゆる有名人が出演するドキュメンタリー作品の面白さを知りました。観る人に与える影響が、ものすごく大きい」。

以前から政治家のドキュメンタリー作品は撮りたいと思っていたのですが、それ以上、もっと世界中をだますような作品をつくってみたいですね! ブラット・ピットのドキュメンタリー作品とか(笑)」。

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■ 結び

『嘘』と『本当』の狭間の世界をつくり出す松江さんの作品は、まさに現実と虚構のスレスレの狭間に在った。

その世界はあまりに自然で「もしかしたら騙されてる?」と疑いつつも、面白くて「もっと観たい!」と感じてしまう。それは、松江さんが現実を過敏に察知することができ、自分にとても正直に生きている人だからだと思った。だから、『嘘』という名の演出や編集をブレなくスパスパできるのだろう。

これからも、松江さんの作品に騙されつづけたい。

 

 

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松江 哲明(まつえ てつあき)

1977年東京生まれ。99年に在日コリアンである自身の家族の肖像を綴った『あんにょんキムチ』を監督し、平成12年文化庁優秀映画賞などを受賞。主な作品にオリジナルビデオ『ほんとにあった!呪いのビデオ』(2001〜2002年)、『カレーライスの女たち』、『2002年の夏休みドキュメント沙羅双樹』(共に2003年)、『セキ☆ララ』(2006年/DVD発売中)がある。ガンダーラ映画祭の第1回(2006年)と第2回(2007年)でそれぞれ上映された『童貞。をプロデュース』と『童貞。をプロデュース2』を併せて1本にした『童貞。をプロデュース』が2007年公開。ガンダーラ映画祭の第3回(2008年)では『セックスと嘘とビデオテープとウソ』を上映した。同年夏に公開される『デトロイト・メタル・シティ』のメイキング映像の制作も行う。

ブログをほぼ毎日更新! 『every japanese woman cooks her own curry』

好きな言葉:嘘

 

■松江哲明さんからお知らせ

5月末、インタビュー本「童貞。をプロファイル」を二見書房より発売します。
インタビューされた人は、峯田和伸、カンパニー松尾、武富健治、山下敦弘、花くまゆうさく、マッスル坂井、大槻ケンヂ、デーブ・スペクター。

下記の発売記念イベントも開催!

『童貞。をプロファイル』(二見書房)刊行記念
松江哲明×大槻ケンヂ トークショー

日時:2008年6月14日(土)19:00〜20:00
場所:青山ブックセンター
詳細はこちら

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5月末発売!松江哲明/編 『童貞。をプロファイル』 (二見書房)2008年

 

 

■松江哲明さん手書き一問一答

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text:ドイケイコ、edit&photo(松江さんのお顔写真):谷屋

 

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