2009/9/1

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art drops インタビュー 2009 vol.1

成田美名子さん/漫画家 ―前編―

01『花よりも花の如く』7巻表紙より (C)成田美名子

人間はすごいということを伝えたい

漫画家・成田美名子さんは、現在雑誌『メロディ』で能の世界に生きる若者を描いた『花よりも花の如く』を連載している。日本の古典芸能である能をなぜ漫画に取り入れようと思ったのか。また、32年という長い漫画家生活の中で何を原動力にして作品を描き続けてきたのだろうか。お話を伺った。

 

 

■ まさか漫画家なんてなれるわけがない

成田美名子さんは、青森県青森市に生まれる。
家族は父、母、弟、そして中学2年生までは伯母の5人。幼い頃から絵を描くのが好きだった。

中学時代はデザインクラブに在籍し、高校は市内で唯一漫画研究会があるということで選んだ高校に進学した。

「幼稚園の頃から漫画もずっと描いてはいたんですが、『まさか漫画家なんてなれるわけがないじゃん』と思っていました。チラシやポスター、広告などのいわゆる商品デザインなどを手がける仕事につきたくて、大学には進学せず、デザイン学校に進もうと決めていました」。

漫画家になったのは、同じ年の従姉妹である小笠原ちあきさんの入院がきっかけだった。

親からもらったお小遣いでお見舞いの品を買うのが腑に落ちず、白泉社の公募に漫画研究会で描き上げた作品を投稿した。

「どんなに少額でもいい。たとえ靴下しか買えなくても、自分で稼いだお金でお見舞いの品を買いたいと思ったんです」。

しかし、この投稿作品『一星(いっせい)へどうぞ』が2位に入賞し、あれよあれよという間にデビューが決まった。現役高校生漫画家の誕生である。

「賞金稼ぎのつもりでしたから、『マジでー?ヤバイ!どうしよう』っていう感じでした(笑)。でも、次から次へと仕事がやってきて描かざるをえず、描いているうちになんとかなってしまったんです」。

こうして期せずして漫画家となった成田さんの最初のヒット作は1980年に発表した『エイリアン通り(ストリート)』(1980‐1984年) である。

その後、アメリカNYを舞台に役者であり双子の兄弟であるシヴァとサイファを描いた『CIPHER(サイファ)』(1985-1990年)、シヴァの友人アレックス・レヴァインを主人公にアメリカのキャンバスライフを描いた『ALEXANDRITE(アレクサンドライト)』(1991‐1994年)を連載していった。

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コミックス版『CIPHER(サイファ)』
3巻表紙より (C)成田美名子
コミックス版『ALEXANDRITE(アレクサンドライト)』
3巻表紙より (C)成田美名子

 

 

■ 転機

長くアメリカを舞台にした漫画を描き続けてきた成田さんだが、漫画家生活が20年に近づいた頃から、日本を舞台に漫画を描こうと思うようになる。

「中学のときの年賀状は、すべて手書きで歌舞伎の芸者の絵を描いていました。着物も好きですし、もともと日本は好きだったんです。日本を描いたのは、やっと帰ってきたという感じですね」。

こうして、1995年より、日本を舞台にした漫画『NATURAL(ナチュラル)』の連載を開始した。ペルーからやってきた少年ミゲールと家族、そして弓道やバスケットボールを通じて出会っていく仲間との交流を描いた青春群像劇だ。

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コミックス版『NATURAL(ナチュラル)』3巻表紙より (C)成田美名子

そして、この作品を描くことは成田さんにとって転機にもなった。

「それまでの作品は、積み木を組み立てるように緻密にストーリーを組み立ててつくっていたんです。でも、もう自分の力ではどうにもならないと感じて、“あっち”からやってくるのを待つようになった。それがこの作品です」。

『NATURAL』以前の作品は、ラストはあらかじめ決まっており、ラストに向けてキャラクターやストーリーをいかにはめこんでいくかというやり方でストーリーを展開していた。

しかし『NATURAL』では、最初に登場人物のキャラクターをしっかり設定し、彼らが動いてくれるのを待つというスタイルでストーリーを展開していった。

「このやり方で描いていくほうがそれぞれの人物が性格をもって動いていくので、無理なく動くし、おおむね合うんです。後から読み直して、『この人なんでここにいるの?』とか『こういう行動をする人だったんだ』と私自身が発見することもありますね」。

時に、それぞれの意思をもって動いていくキャラクターの行動を記録しているだけのような気持ちになることもあるのだという。

また、成田さんはこの作品を連載中に出会った1冊の本からも大きな影響を受けた。

「当時、取材もかねてアメリカにNBAを観に行き、飛行機の乗継便を待っているときに『宗教民俗学への招待(宮家準著)』を読んで、日本おもしれー!!!と」。

この本との出会いによって、さらに日本に引き込まれていった成田さんは、以降、弓道や神社といった、より日本色の強い題材を漫画に取り入れてストーリーを展開していくことになる。

そして、このことが次なる作品への呼び水ともなっていった。

 

>>成田美名子さんインタビュー の後編はこちら

 

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