2007/3/15

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art drops 第12回 インタビュー  

3月:口=伝える 宮島達男さん(アーティスト) ―後編―

■art in you

宮島さんの創作活動の中には、しばしば「平和」や「人とのつながり」といったキーワードが伺える。そのキーワードは「death of time」、数十年ぶりに開始したパフォーマンス「Clear Zero」、「柿の木プロジェクト」など、ターニングポイントとなった作品にも関わってくる。

「原爆二世にあたる柿の木の存在を知った時は、本当に感激して惚れ込んでしまったんですよ。私は、感激したら駄目なタイプなんです。とにかく、伝えたくてしょうがない、という強い衝動にかられました。そう、未来の子供たちにね!」
満面の笑みで語った。

このプロジェクトを通じて、宮島さんは「art in you」という言葉に辿り着く。
「プロジェクトを進める中で人の中の優しい気持ち、平和な気持ちがはじけている様を目の当たりにしたんです。柿の木プロジェクトはドミノ倒しのようにどんどん広がっていき、今や世界中に広がっている。そういった様子を見て、art in youだ、と思ったんです」。

「art in you」とは、すべての人の中にはアート的なものがあるということ。
宮島さんにとってのアートとは、一体どういうものだろう。

「たとえば夕焼け空を見て『きれいだなあ』という気持ちや、桜の花吹雪の下を歩いている時に『わあ!きれい』と思う気持ち、そういう気持ちがアートの本質なんです。つまり感激する心、驚く心、嬉しい気持ち。

そういうのは誰でも持っているでしょ。そういうアートの気持ちを、もっと開いていきたいんです」。

アーティストとしては、いわゆる“特別な才能があるアーティスト”としてうたっていた方が確立しやすいだろう。しかし、それを否定するような意味にもとらえることができる「art in you」を、宮島さんは主張する。

 

mr
pe

Death of Time
1990-92
LED, IC, electric wire, aluminum panel
1,180 x 1,380 x 450 cm (installation)
Collection of Hiroshima City Museum of Contemporary Art
Photo : Mitsuhiko Suzuki / Hiroyuki Yazumi
Courtesy of Shiraishi Contemporary Art Inc.

Clear Zero
1995
performance at Queen's House, Greenwich, London
Courtesy : Shiraishi Contemporary Art Inc.
k
Kaki Tree Project
2005
Avignon, France
Courtesy of Shiraishi Contemporary Art Inc.

「Death of Time」(左上図)は、高校生のころ広島へ修学旅行で訪れた際に原爆が投下されたことへ精神的打撃を受けた宮島さんが、ある時、自分自身の中にも“悪魔”がいると認識し、戦いつづけることを決意して表現した作品。赤いLEDの数字が横に並んでいるが一部表示されておらず、そこを原爆が投下された時間帯として表現している。「Clear Zero」(右上図)は、イギリスのグリニッジで行われたパフォーマンスで、45カ国の人たちが自分の国の言葉でカウンティング数字を数えるというもの。宮島さんにとって約10年ぶりのパフォーマンスは新鮮で、生身の人間と一緒に仕事をやっていく喜びを感じさせた。「Kaki Tree Project(柿の木プロジェクト)」(左下図)は、1996年、宮島さんが発起人となったプロジェクト。それは長崎において被爆した柿の木の2世を植樹していく「ジョイント・パフォーマンス」で今なお続いている。プロジェクトに関わる子供たちやその他の参加者が "被爆柿の木2世" に触れていく中で感じたこと、起こした行動を「アート表現」として捉えることにより、参加者すべてを「表現者」として取り込んでいく。

 

■今こそ、伝えたいもの、究極に大切なもの

先日、そんな宮島さん自身が新たに変化したことが伺える作品が生まれた。
現在、水戸芸術館で開催されている個展「art in you」内で発表され、注目を集めている「HOTO」だ。

「あんなに大きくて、ぴかぴかで、自分の顔まで映っちゃうし、もう大変な作品なんですが、今回、伝えたいことを伝えるにはこうするしかなかったんです」。

伝えたいこと。

それは、“命”について。

「“命”を表現するのは、かっこつけて言えるほど簡単ではないし、かと言って、やけくそではないし。とにかく、がむしゃらに訴えていくしかない。
権威とか他人からの評価とか今までやってきたこととか全部脱ぎ捨てて、無垢の状態で全身全霊で取り組まないと言えないことです。
それほど“命”は奇跡的なことなんですよ。あの作品を見に来た人達みんなに『この作品は、あなた自身の“命”を讃えるために水戸に降りて来たんですよ』と言いたいです」。

では、この作品の背景には何があったのだろう。

「今の社会を見ておかしいと思いません?こんなに物が溢れているのにアフリカの子供たちは餓死しているとか、こんなにお金がないって言いながら原水爆の開発に何兆円とキープしているとか。
“命”が凄く軽くなっているんですよ。そういうことを、次の世代に伝えていきたい。今、伝えなければ、伝えられないんです」。

そして、この激しい衝動は、今なお、続いている。
「これからも、とにかく、がむしゃらに取り組んで行こうと思っています。突っ込んで行こうと思いますよ」。

まだまだ続く、宮島さんの挑戦。
3つのコンセプトに辿りつくまで、これからも新たな局面を見せながら、真摯に活動していくのだろう。

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高さ5.5メートル、直径2.2メートルで、3,827個の6色のLEDと、数字が黒く(1色)表記される7つのカウンターヴォイドで構成される、7色に光り輝く作品。左図は周囲が暗い時に撮影したものだが、数字の背景となる部分は本来鏡のようにピカピカ銀色に光っている。

 

HOTO
2008
549.0×208.0(diameter)cm
LED,IC,electric wire,aluminium panel
Courtesy of Shiraishi Contemporary Art Inc. and Lisson Gallery

 

 

 

■結び

宮島さんは、言葉をひとつひとつ丁寧に選びながら、とても分かりやすく質問に答えてくださいました。ごっつい風貌で、時に身振り手振りを交えて熱く語ってくださる姿は、これまで拝見してきた静的で洗練された作品の様相とは正反対な方だな、と思ってしまうほど(笑)。

しかし、そんな宮島さんが生きていく上で大切にしていることは、精選されていて極めて美しく、作品に通じるものがありました。

今回、最も印象に残った「人は大切なことでも時々忘れたりするから、伝えつづけなければいけない」という言葉は、art dropsとして、そして私個人としても、しっかり心に刻み込んでおきたいと思います。

 

mp

宮島 達男(みやじま たつお)


1957年生まれ。東京芸術大学美術学部油絵科卒業、同大学院美術研究科絵画先攻修了。 1990年アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の招きでニューヨークに滞在。1990-1991年ドイツ文化省芸術家留学基金(DAAD)留学生としてベルリンに滞在。1993年カルティエ現代美術財団アーティスト・イン・レジデンス・プログラムによりパリに滞在。1998年ロンドン・インスティテュート名誉博士号受賞。2006年東北芸術工科大学の副学長に就任。

好きな言葉:希望
>>宮島達男さんの公式サイト

 

 

■今後の予定
宮島達男個展「Art in you」
2008年2月16日ー5月11日(日)
9:30-18:00(入場は17:30まで)*休館:月曜日、ただし5月5日(月・祝)は開館
水戸芸術館現代美術ギャラリー
詳細はこちら>>

 

■宮島達男さん手書き一問一答

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text:ドイケイコ、edit:谷屋、photo(宮島さんのお顔画像):オカッコ

協力:SCAI THE BATHHOUSE

 

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