2007/12/15

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art drops 第9回 インタビュー  

12月:鼻=匂い、時代に敏感な感覚 
井上文雄さん(MUSEUM OF TRAVEL代表/デザイナー) ―前編―

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その人はなぜそう考えるのかという問いをたてちゃうんです

MUSEUM OF TRAVEL(以下MOT)は、現代アート関連のイベントを企画する任意団体。2005年の代官山インスタレーションへの出展をきっかけに結成され、現在に至っている。

現在の活動の中心は毎回ゲストを呼んでプレゼンテーションをしてもらい、その後ゲストと参加者が話し合う「キャンプ」というイベントである。今ある社会の中で、どのように新たな道筋を嗅ぎとって、話し合いの場をつくろうとしているのか。MOT発足までの経緯と現在の活動について、コアメンバーの井上文雄さんにお話を伺った。

■やりたいことを仕事にしたいと思い続けた日々

井上文雄さんは1973年、神戸市に生まれた。1993年、中央大学法学部政治学科に入学。ほとんど学校には行かず、バイトをしながら、映画、劇団、スキューバーダイビング、インラインスケートなどに没頭する生活を2年ほど送った。やりたいことを仕事にできれば、大学は中退しようと漠然と思っていた。

「95年に阪神・淡路大震災があって、なんとかしないとまずいことになってしまいました。でも、どうしてもやりたいことを仕事にしたかったので、どうすればできるかを考えるようになりました。今から振り返るとすごく単純すぎてちょっと恥ずかしいのですが、何かをつくることに関わりたいと思って、デザインに興味を持ちました。ただ、当時の友達は役者になりたい人がほとんどで、デザインの仕事をするにはどうすればいいかを相談できる人がいなかったし、デザインを学ぶために学校に行くお金もなかったので、デザインの雑誌や本を読みながら、初心者でも雇ってくれそうなデザイン事務所をとにかく受けまくりました」。

しかし現実はそれほど甘くない。辛うじて拾われたエディトリアル・デザイン事務所で働きながらデザインを学んだ。3年後、25歳で独立してフリーランスのデザイナーになった。

 

■やりたいことを考え続けた日々

フリーランスで仕事をするようになってから数年後、新しい悩みが浮上した。

「29歳くらいになって、企画に興味を持つようになってきました。多分、仕事を受注していることがちょっと不安になってきたんだと思います。このまま続けていたら、どうなるんだろう? とか。頼まれなくなったら、どうしよう? とか。それで、仕事先に企画を提案してみたのですが、あまりうまく行きませんでした。だったら、自分で考えて自分でやればいいかと思うようになりました。そう思って、誰からも頼まれずにやるとしたら、自分は何をやりたいのか?を考えたんですが、考えれば考えるほど、わからなくなりました。企画やアイデアを考えることは好きだったし、考えたことはとりあえず実行してみようとするので、自分が何をやりたいのかは明確には分からなかったのですが、試行錯誤を繰り返しました。同時に、いろいろなところをウロウロしたり、人と話したり飲んだり、本を読んだりしながら、なぜ今やりたいのか? やりたいことにどんな意味があるのか? ということを考え続けました」。

 

■代官山インスタレーション2005への出展

2005年、友人と考えた企画が代官山インスタレーションの選考を通過した。

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代官山インスタレーション2005にて 撮影:増田和弘

代官山インスタレーションは、二年に一度秋に開催される展覧会。国内外の応募の中から、選定された約10プランの作品が三週間の会期中、代官山の街並みにインスタレーションとして設置される。

「“旅”をテーマとする期間限定のミュージアムを作るという企画を出したら、運良く選ばれました。でも、実際にやるのは本当に大変でした(笑)」。

3ヵ月の短期間で、ミュージアムを代官山にあるヒルサイドウエスト※の敷地内に作り上げることになった。二人でスタートさせた企画だが、知り合いに声をかけ、約20人がスタッフとして集まり、企画を実現させていった。

「海外旅行をした時に撮った写真をいろいろな人から集めて、展示しようと思いました。見ようとしないと何も見えてこないこと、見方や考え方でどのように見えるかは変わってくることを提示してみたかったんです」。

スタッフが友人に頼んだりインターネットを利用したりして、写真提供を呼びかけ、約3,000枚の写真を集め、約2,000枚を地域別に展示した。

 

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写真の展示の様子、代官山インスタレーション2005にて 
撮影:増田和弘

「それから、偶然そこで居合わせた人が出会うきっかけもあればいいなと考えていました」。

“旅”に関連した本を集めたライブラリー、世界各国のお茶やお酒が飲めるカフェをつくった。また、さまざまなゲストを招いたトークイベントやパーティーなどを行うことで人が出会い、話し合い、考える場をつくり上げた。

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ライブラリーの様子、代官山インスタレーション2005にて
撮影:増田和弘

 

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トークイベントの様子、代官山インスタレーション2005にて 
撮影:増田和弘

 

>>井上文雄さんインタビュー の後編はこちら

 

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