2008/4/15

TOPCONTENTSインタビューバックナンバー

art drops インタビュー 2008 vol.1  テーマ:「心が変容する」 金子きよ子

茂木綾子さん/写真家・映像作家 ―後編―

■『色』

その後、ヨーロッパで暮らしながら、写真や映像制作など多岐にわたる活動を行っていくうち、茂木さんはあることに気づく。
「今までの自分の作品を見ながら、自分にとって『色』というものがとても重要なのに、自分ではその重要性に気づいていなかったということに気づいたんです」。

時を同じくして、染織作家志村ふくみさんの写真集『織と文』に出会う。志村ふくみさんの作品は、草木などがすでに抱いている色を『いただき』、そこなうことなく糸に移しこみ、機で織り込んで一つの作品をつくりあげていく。その行為は、自然に存在する『色』を、植物染織という手段を媒介として一つの形に昇華しているかのようにすら見える。

4

織と文』 志村ふくみ著/求龍堂、1994

 

「私が『色』に対して感じている、言いたくても言えない、よく分からないことを、こうも真摯に突き詰め、哲学的に作品と言葉で表現している人がいるのかと」。

志村さんを被写体にして、『色』を言葉とは違ったアプローチから表現してみたいという思いが膨らみ、被写体になってもらえないかと依頼するも、高齢であることを理由に断れてしまう。

「そこで、以前から知り合いだったP3 art and environmentの芹沢高志さんに、染織と色をテーマにした映像作品を撮りたいと相談したんです」。

ほぼ時を同じくして、芹沢さんの元には、建築家の相澤久美さんから、相談が持ち込まれていた。その内容とは、偶然にも、琉球、八重山の染織作品に強い感銘を受け、島の暮らしや植物染織を映像として社会に伝えたいので映像を撮る人を探しているというものだった。

芹沢さんから紹介を受けた相澤さんとともに、石垣島や西表島を訪れ何人もの染織作家に会った。そして、石垣昭子さんの元に辿り着いたとき、茂木さんは確信に近いものを感じたという。
「石垣昭子さんの作品は、感性でつくっているピュアさがあったんです」。

こうして被写体を石垣昭子さんと決めた。石垣昭子さんが志村ふくみさんの弟子だということを、後から知った。

5

石垣昭子さんの染織作品 映画『島の色 静かな声』より(C) Ayako Mogi

 

 

■『島の色 静かな声』

いくつかの偶然が重なり、西表島を舞台に、染織と色をテーマにした映画『島の色 静か声』はゆっくりと形をとり始めていく。

2006年、芹沢さんと相澤さんが組合員となり、サイレントヴォイス有限責任事業組合(LLP)を立ち上げ、監督・撮影は茂木さん、撮影の一部には夫のヴェルナー・ペンツェルも参加することになった。

主な登場人物は、染織作家石垣昭子さんとその夫で三線の名手でもある石垣金星さん。共に島に古くから伝わる伝統文化、技術継承に力を尽くすと同時に、リゾート開発などによる島の環境破壊を食い止めようと日々奔走している。
「当初つくろうと思っていた映画のテーマは、色と染織でしたが、出来上がった作品は違ったものになっていますね。昭子さん、金星さんという2人のカップルがとても強烈だったし、西表島の暮らしをよく知るうち、宗教的なことや、石垣さん自身の環境に対する思いや、後継者育成といった使命感に、私も影響されて、次第につくりたいものが変わっていったんです」。

完成した映画は石垣昭子さんと石垣金星さんの人となりに焦点をあてた、よりメッセージ性の強い作品に仕上がった。

6 8

石垣金星さん(左)、石垣昭子さん(右) 映画『島の色 静かな声』より(C) Ayako Mogi

 

西表島の日常を全身に取り込み、一つの作品として昇華していく過程を通じ、茂木さんは何を感じたのだろうか。
「島の暮らしは、自然やスピリチュアルなものと切っても切り離せないほど深く結びついているんです。染織も、島と自然と分かちがたくつながっていているという感じが強くしました」。

『色』をテーマにした映像作品をつくりたいという衝動が西表島に茂木さんをいざなった。一連の流れは、あたかも茂木さんを媒介としてその土地に潜在的に眠る何かを浮かび上がらせているかのようにも見える。

10

『島の色 静かな声』より(C) Ayako Mogi

 

「私は、説明できないんだけど、確かにそこにあって、強く感じるものを、説明するんじゃないやり方でどう表現するのかということに興味があるんだと思います」。

k3

 

今回の映画でご自身を『フィルター』に映し出しているものはどんなものなのだろう。映画を観るのが楽しみでならない。

 

 

■結び

取材を終えて、茂木さんがこの映画をとるきっかけにもなった志村ふくみさんの本を読んだ。

選ぶ言葉一つひとつが、まるで最初からそこにあったかのように今もそこで生きて呼吸している錯覚に陥った。次のページをめくった瞬間、作品が映し出されていて、思わず息を呑んだ。

織り成された布に、今も生きている自然が在った。

ふと、茂木さんの作品を見たときに陥った感覚によく似ているような気がした。
もしかしたら、志村さんも茂木さんも、そこにすでに存在しているものを素直にうつしとっているだけなのかもしれない。

お二人の作品が、これほど静かに心を揺り動かすのは、それが人智を越えた、『大いなるもの』とつながっているからなのかもしれない。

 

 

p  

 

茂木 綾子(もぎ あやこ)

1969年北海道生まれ東京育ち。武蔵野美術短期大学(中退)を経て、東京藝術大学デザイン科に入学、3年時に中退。学生時代に写真、映像に出会う。92年キャノン写真新世紀荒木賞受賞。97年以降、ドイツのミュンヘンに生活の拠点を置き、05年よりスイスのラコルビエールに滞在。06年には、ジュパジュカンパニーを設立。(同カンパニーでは、アーティストを招待し、生活、製作、交流を実験的に行うプロジェクトを行っている。)また、数々の個展や、グループ展で写真を発表するものの、活動の幅は範囲が広く、『COYOTE』(スイッチ・パブリッシング)で「CARAVAN LOST」(フォトエッセイ)を連載。手掛けた映像作品には、映画『風にきく』、映像・映画作品:『IN THE COUCH』(ビデオ&フォトブック)などがある。
尚、 『風にきく』は、2002・スイス二ヨン国際ドキュメンタリー映画祭特別賞を受賞し、・ミュンヘン国際ドキュメンタリー映画祭、台湾国際ドキュメンタリー映画祭、日本各地で上映された。写真、映像に渡る活動を、媒体を厭わずボーダレスに展開している。

 

■茂木綾子さんからお知らせ

最新作品は、童話写真集『どこにいるのシュヌッフェル?』は四月社より好評発売中です。

映画『島の色 静かな声』は2009年春、シネマアートン北沢公開、DVD同時発売を予定しています。

 

 

■茂木綾子さん手書き一問一答

ichi

 

text×edit:オカッコ&金子きよ子、photo:金子きよ子(茂木さんのお顔写真)

 

<<茂木綾子さんインタビューの前編はこちら

※このページに掲載されている記事・画像などの一切の無断使用は堅く禁じます。

 

top con